パンローリング株式会社・マルチメディアコンテンツ制作部 部長  岡田朗考さん

第13弾は、オーディオブックの制作に携わるプロデューサーさんにお話しを伺いました。

インタビュアー
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御社のオーディオブックはどんな方が本を読んでらっしゃるのですか?

行為としては、「読む」にあたりますので、ナレーター・声優・俳優という、表現をしている人、声を職業としている方が多いです。ただし、演出の方針から、その方の出自に関わらず、「読む」ではなく読み文字を喋り言葉として「話せる・喋れる」方=「話者(わしゃ)」としてお願いできる方に依頼しています。

インタビュアー
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「話者」とは?

私の求める人材が、「声優」「俳優」「アナウンサー」「ナレーター」「語り部」「語り手」「朗読家」「ストーリテラー」どれも微妙に的を射ていなくて、いくつかの要素にまたがっているためしっくりこないので、なんとなく言っているだけなんですけどね。笑
 
説明をわかりやすくするためにざっくりと誤解を恐れずに申し上げますが、私は文字を音にする作業に意味を持たせるとしたら、基本的に2つしかないと思っているんですね。「情報の伝達」か「内容や世界の共有」。これを考える時に。1つはアナウンスメント。語源は「発表・告知・知らせる」などです。で、多くの方が言う「ナレーション」というものは、そもそもよく考えると存在していないんじゃないかとすら考えています。私から見ると、ナレーション、ナレーターというのはとても宙ぶらりんでカテゴリーしにくいんです。ナレーションの語源は「語り・話芸」です。よく、「あの人のナレーションは良い。ナレーションがうまい」と言いますが、何が「良い・うまい」と感じさせるのか。一般的にはアナウンスメントの意味合いに近いものをイメージする方が多い気がしますが、実際にする方からしたら「ナレーション=語りの技術」というものは、その人固有の個性のようなものを指すものだと考えているので、どちらかといえば、次に紹介する2つめ「アクト(演技)」の領域に入ってくるのではないかと思っています。
 
オーディオブックは目で読めば済むものをわざわざ音で聞くのですから、その価値のあるものにしなければならない訳です。しかも、オーディオブック独特の要素として、喋っている時に画や資料などの補完する視覚情報がなく、完全に音だけで伝えきる、完結しなければならないものでもあります
 
何かを聞くときに、「人から聞いた伝聞(彼は~ということです)」と「本人から聞く(私は~です)」のどちらが、あなたにとって説得力があるかと考えていただければわかるかもしれません。ですから誰かが書いた本の内容を、正確かつ聴きやすい音声で、情報として伝聞する=アナウンスではなく、著者・作家の意向や思惑、想いと、それを求めるであろう聴き手をつなぐために、内容を読解し、的確に解釈し、聴き手にわかりやすい状態に変換し、著者・作家、つまり人として喋る=行動する必要があります。それには読む上で、演技のアプローチがどうしても必要な訳です。
 
もちろん題材によってアナウンスメントに重きを置いた方がいいものも多々ありますし、一概に必ずしも全部「生々しく人として喋る」ことが最優先とは考えていません。ただ、人が人に喋り掛けるという意味において、いかなるものでも、書いてある情報を伝えることが「目的」であって、読むことはあくまでも「手段」なんです。節回しで朗々と朗読するような語りの話芸や、流麗な発音発声に溺れるような「目的」となってはいけないと思います。

インタビュアー
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話者になるためのトレーニングをしたいという方は?

俳優向けに書かれたいくつかの素晴らしい本があります。サンフォード・マイズナーの「サンフォード・マイズナー・オン・アクティング」や、ステラ・アドラーの「魂の演技レッスン22」、鴻上将司さんの「演技と演出のレッスン ─ 魅力的な俳優になるために」などの、演技論の本にまずは目を通してみて欲しいです。
「私はナレーターだから」「アナウンサーだから」と思っている方には特にですね。表現をするということの根幹がここにあると感じています。
 
私の主催するワークショップでも同じように、画一化された技術論や、私個人の趣味を押し付けることはしていません。個性はそもそもひとりひとりそこにあるものですから、個性を意図的に殺す、伸ばすという作業はむしろ「人が喋る」ことを否定していくようなものだと考えるからです。まずはアクト=Do(行動)の前にその人としてただいるBe(状態)であることを徹底的にやります。それがその人として矛盾なく喋れるようになる第一歩だと考えているからです。
意志を持った行動としてのDoは、自らを肯定するところから始まっています。そのため、自分の表現に疑いをもつことが少ない。意図した通りにできればできるほど、自らを疑わない。
自分自身が「これが自分の良いところ」と思っている個性が、ひょっとしたら聴き手はあまり良いと思っていないかも、自分が良いと思っていることがもしかしたら「共感」を導いてないかもしれないという事を考えていただくために、その状態を演じるのではなく、まずはその状態にある。この作品のカメラが写している景色を過不足なく伝えるための話者として、その状態にある。そこにいる。ということですね。うまく言えませんが。笑
 
公共の場に、作品を一緒になって作っていく仲間としての「話者」には、誰かの代わりに自分がその役割を担うことで、誰かの人生の大切な時間の一部をより豊かなものにするために、主観の個性やこだわりは往々にして諸刃でもあるということをよく理解していただきたいからです。

 【インタビュー後記】
実際、こちらでの収録するとなった場合「収録している時間より圧倒的に読解する時間のほうが長いです。音声化する段階で読みやすくするためのルールがあり、原稿に記号を付けます。その原稿を持ってスタジオに入れば、音楽を演奏するようにスラスラと話せ、あっという間に収録は終わっているんですが…そこまでの作業はかなり面倒くさいので、それをやる覚悟があるか?」とのことです。
 
http://www.digigi.jp/bin/mainfrm?p=topics/recruit-nar
「話者」は随時募集されているようです。

【岡田さんプロフィール】
日本大学芸術学部演劇学科卒。
同社にてオーディオブック含むメディアコンテンツ制作事業部を、2005年の立ち上げから現在に至るまで、自社制作している4,000コンテンツ以上の作品制作事業責任者。
レコーディング制作現場においては、演出、ディレクターとして従事。
同社オーディオブック独自の表現技法の追求のため、2013年からは、提携声優事務所にて定期的に講義、俳優、声優、ナレーター、朗読家と垣根を越えた「話者」育成のための外部ワークショップも主宰。原稿読解及び、演劇のメソッドをベースにしたコーチングで、わかりやすく聴きやすい喋り、語り、演技を教えている。
 
パンローリング株式会社マルチメディアコンテンツ制作部 部長
ディレクター/アクティングコーチ
一般社団法人 日本アクティングコーチ協会(JACA)会員